ここ数年、耳にすることが増えてきた化学物質過敏症。
柔軟剤や芳香剤の香りの成分や、タバコの煙、殺虫剤・防虫剤など、身の回りにある製品に含まれる化学物質を知らない間に摂取し続けることで、ある日突然発症する病気で、誰にでも発症リスクがあると言われています。
摂取した化学物質の量が身体の許容量を超えた時、ごくごくわずかな化学物質にも反応が現れて、激しい頭痛や吐き気、めまい、皮膚炎などさまざまな体調不良を起こす病気で、日常生活にも支障を及ぼす恐ろしい病気。
日本には現在700万人ほどの患者さんがいるそうですが、原因や症状が人によって異なる上に診断を下せる病院も少なく、潜在的な患者は1000万人を超えるとも言われています。
今回は、引っ越しをして賃貸物件に住み始めたことをきっかけに化学物質過敏症になってしまった例と、注意点・対策についてお伝えしようと思います。
新築・リフォーム後の賃貸で化学物質過敏症に
賃貸物件を探す時、「新築」とか「リフォーム完了」という文字を見ると、なんとなく「清潔でキレイそう」「値段が同じなら新しい方がいい」と感じてしまいますよね。
実際、築30年のアパートでも内装をフルリフォームしてあれば、外観はともかく室内は明るく快適・便利に暮らせる物件もたくさんあり、価格的にも良心的な設定のものが多いです。
でも、新築やリフォーム後の物件で注意しなくてはならないのが、シックハウス症候群。住宅の建材に使われる接着剤や塩化ビニルから放散される化学物質を吸うことで、頭痛や吐き気などの症状が現れる場合があります。
このシックハウス症候群、換気をして化学物質を含んだ空気を入れ替えたりすることである程度緩和されますが、それでも微量の化学物質を体内に取り込み続けることとなり、ある日その量が身体のキャパシティを超えてしまうと化学物質過敏症を発症してしまいます。
同じ家族で同じ空間で暮らしていても、人によって症状が出る人と出ない人がいたり、症状のレベルも異なっている場合があるため、体調不良の原因が部屋の空気だと分かるまでに時間がかかることも。
自分に何の症状が無くても、新築やリフォーム後の賃貸に引っ越してから家族の誰かに以下のような症状が現れたら、シックハウス症候群や化学物質過敏症を疑ってみるといいかもしれません。
- ・目のかゆみ、目がチカチカする
- ・皮膚炎
- ・頭痛
- ・鼻炎
- ・味覚異常
- ・吐き気
- ・めまい
- ・不眠 など
新築・リフォーム後に放散される化学物質
リングと白い壁紙でナチュラルそうに見えるお部屋でも、実際には多くの化学物質が使われている場合があります。
例えば・・・、
ホルムアルデヒド
発がん性物質で、一般建築の際によく使用される合板に使われる接着剤に含まれます。身体に有害なことが分かり、現在は揮発量の指標によって低ホルムアルデヒド(F☆☆☆☆グレード)の建材が使われるのが一般的ですが、ホルムアルデヒド非使用というわけではありません。
また、フローリング、作り付けの台所の棚の扉、システムキッチンの収納部、クローゼットの扉など、合板が使われている箇所には含まれています。
フタル酸エステル類
賃貸アパートなどでよく使われる塩化ビニルの壁紙クロスやクッションフロアに含まれる化学物質です。
壁紙と「紙」とは名ばかりで、実際には汚れにくくて加工がしやすい塩化ビニルのクロスを使用している場合が多いことから、揮発性のフタル酸エステル類が放散される面積も大きくなります。
また、壁紙を貼る際に使用する接着剤にもホルムアルデヒドが含まれている場合があります。
トルエン、キシレンなど
住宅に使用する建材の中で、明確に規制をされているのはホルムアルデヒドだけで、実際にはトルエンやキシレンといった身体に有害な化学物質が、さまざまな形で使用されています。
また、建材だけでなく、防カビ剤や防炎剤、防ダニ剤、抗菌剤など、至る所に化学物質が使われていますが、賃貸の場合はあらかじめどこにどのような加工が施してあるのかがわからないという難点があります。
賃貸で化学物質過敏症になった事例
実際に、賃貸物件で化学物質過敏症になってしまったという事例をいくつかご紹介します。
事例①:赤ちゃんが化学物質過敏症に
都内近郊に暮らしていたFさんご夫妻。
結婚して間もなく赤ちゃんを授かり、出産前に少し広めのアパートに引っ越すことにしました。
駅やスーパーからも近く、築年数は少し経つものの「フルリフォーム済み」との言葉に惹かれて内見、無事に引っ越しも済ませてからしばらくして、待望の赤ちゃんを出産。
ところが生後半年ほど経ったころから、赤ちゃんの顔や腕にひどい湿疹が出始め、夜もかゆみや痛みからか、泣いて寝てくれない状態に。
小児科や皮膚科を受診して、処方された軟膏を塗ってもなかなか良くならず、慣れない育児に疲れてしまった奥さんは、田舎の実家に赤ちゃんを連れてしばらく里帰りをすることにしました。
奥さんの実家は昔ながらの日本家屋で、周辺も自然が多く、空気が綺麗な場所です。
そこで数日過ごすうちに、赤ちゃんが夜すやすやと眠れるようになり、それまで何をしても治らなかった肌の状態も落ち着いてきました。
そこで初めて、赤ちゃんの体調不良はもしかしたら住環境にあるのかもしれないと考えた奥さん、ネットで調べて確信し、改めて化学物質過敏症に詳しいお医者さんに診てもらうことにしました。
その結果、やはり赤ちゃんはリフォームしたばかりの部屋でシックハウス症候群から化学物質過敏症を発症してしまっていることが発覚。
大人に比べて部屋で過ごす時間が多く、免疫も低く、そして化学物質が溜まりやすい床から近い場所にいる赤ちゃんは、大人に比べて化学物質の影響を受けやすいと言われています。
Fさん家族の場合も、大人は何も感じずに生活していた空間で、赤ちゃんだけが化学物質過敏症になってしまったのです。
診断を機に、Fさん家族は奥さんの実家に近いエリアへの引っ越しを決断、しばらく実家で過ごしたのち、中古の戸建てを赤ちゃんでも安心して暮らせるようリフォームをして今は穏やかに暮らしています。
事例②:一人暮らしで化学物質過敏症に
こちらも都市部に暮らすNさん。
地元の大学を卒業し、就職のために上京、一人暮らしを始めました。
せっかくだから手狭でも新しいアパートがいい、と築2年の物件に住み始めたNさん、まだ新築の香りがほんのり残る部屋に最初はわくわくしたのだとか。
ところが、通勤が始まり数ヶ月が過ぎたころ、電車の中での他の人の匂い、柔軟剤や整髪料、香水の香りや、タバコの煙など、それまでそんなに気にならなかった匂いが鼻について、頭痛やめまいを感じるように。
最初は一人暮らしや就職のストレスや疲労かな?とも思ったNさんですが、たまたま受診した医療機関で生活の変化について聞かれ、「もしかしたら新しいアパートの建材も原因かもしれませんね」と指摘されて、自分でもいろいろと調べた結果、自分が化学物質過敏症だと確信しました。
その後別のアパートに引っ越しをし、自らの生活習慣も見直して身体に良い食べ物や洗剤を使うように心がけ、徐々に回復されているそうです。
事例③:ペットの犬もアトピーに
んは、ずっと夢見ていたペットとの生活を始めるために、ペット可の物件に引っ越すことにしました。
やや築年数が経っているアパートですが、フルリフォームをして壁や床は汚れにくいビニールクロスやクッションフロアが貼ってあり、ペットが粗相をしても片付けしやすいように工夫してある物件です。
引っ越してすぐに、保護犬の仔犬を迎え入れたAさん、毎日楽しくわんちゃんと過ごしてたのですが、ある時から息苦しさを感じるようになりました。
部屋の空気が悪いのかな?と思い、窓を開けて換気をすると楽になる、という状態だったのでさほど気にせず、夜も網戸にして寝るなどしていたAさん。
数ヶ月ほど経ったころ、愛犬が身体を痒がっているような気がして、よく見ると、皮膚が赤くなっている箇所があり、シャンプーをしても良くなりません。
獣医さんに相談して、薬用のシャンプーや軟膏、飲み薬を処方してもらうも、皮膚の赤みはどんどん広がっていくばかり。目の周りや手足の先など、毛が抜けて赤く腫れ、痒みからか落ち着きもなくなってしまいました。
食物アレルギーかもしれない、とフードを変えてみると、少し良くなったと思ったらまた悪化する・・・を繰り返すうちに、調べてたどり着いたのが化学物質過敏症。
ペットの犬や猫も、人間の赤ちゃんと同様に、部屋の中で過ごす時間が多くて床に近い場所にいるため、化学物質の影響を受けやすい生き物です。
そして人間同様に、同じ環境にいても全ての犬や猫が化学物質過敏症になるわけでもありません。現に、同じアパートの他の部屋で元気に暮らしている犬や猫もいます。
Aさんの愛犬は身体が特に敏感に反応してしまったということですが、これを機に別のアパートに引っ越したAさん、目に見えない化学物質から愛犬が守ってくれたとも言えますね。
賃貸で化学物質過敏症にならないための対策
引っ越しなどで新しく賃貸物件に住み始める場合、シックハウス症候群や化学物質過敏症にならないための対策をいくつかご紹介します。
築年数、リフォーム歴を確認する
築年数は記載されていることがほとんどですが、リフォームをした時期や内容についても確認しましょう。
一般的に、シックハウス症候群になるような化学物質の放散は5年ほどで収まると言われていますが、元々花粉症などのアレルギーがある方や、化学物質に敏感な体質の方は特に注意が必要です。
新築でなくても、築4年とか、2年前にリフォームといった物件は多いと思いますが、目安として築5年以上、リフォームからも5年以上経過している物件のほうが化学物質のリスクは低いと言えます。
こまめに換気する
室内にこもった化学物質を屋外に排出するため、こまめな換気を心がけましょう。
最近のマンションやアパートでは24時間換気システムが備わっているところも多いですが、床の近くなどに空気が溜まってしまうこともあります。
2箇所以上の窓を開けて、室内の空気を入れ替えることで化学物質の排出を促すことができます。
合板や化学繊維の家具を買わない
引っ越しに際して、家具を新調することもあると思います。
量販店などで格安に販売されている組み立て式の木製家具の多くは、接着剤で貼り合わせた合板を使っている場合が多く、新品だと化学物質が揮発してしまいます。
ステンレスやアルミなどの金属製のシェルフにしたり、接着剤を使わず無垢の木で作られた家具を揃えるなど、検討してみてください。
同様に、合成ゴムや化学繊維のラグやカーテンからも化学物質が放散されるため、できるだけコットンや麻、ウールなどの天然素材のものを選ぶようにしましょう。
拭き掃除をする
入居前のお部屋は、防虫剤や消毒剤などで清掃を行っている場合があります。
入居前に硬く絞った雑巾などで一通り拭き掃除をすることで、残った成分を除去すると安心です。
周辺環境を確認する
換気をしようと思っても、近くに大通りがあって排気ガスが入ってきたり、近くで新築の住宅を建築中だったりすると、かえって外から化学物質が舞い込んでくることがあります。
アパートを選ぶ際には、買い物や駅近などの利便性だけでなく、周囲の空気環境も考慮することをお勧めします。
引っ越しも視野に
万一シックハウス症候群や化学物質過敏症を発症してしまった場合は、引っ越しを検討することも大切。
契約期間が2年であっても、多くの賃貸物件では解約予告期間を1ヶ月にして、1ヶ月分の家賃を支払えば契約途中でも退去できるといった内容を契約書に記載しています。
人気の物件では解約予告期間が2ヶ月以上などの場合もあるようなので、契約時にしっかりと条件を確認しておくと安心です。
また、病院を受診して診断書を書いてもらうことで、交渉がスムーズに進むこともあるかもしれませんが、場合によっては原因の調査など大掛かりな検証が必要となり、結局「基準値以上の化学物質は検出されず」という結果になることもあるようです。
シックハウス症候群や化学物質過敏症は、人によって発症したりしなかったり、程度も異なり、原因物質を突き止めることも難しいと言われています。
しかし、発症してしまうと環境を変えることが回復への一番の近道。できるだけ早く別の物件に移れるよう不動産屋さんなどに相談してみましょう。
まとめ
今回は、引っ越しをして賃貸物件に住み始めたことをきっかけに化学物質過敏症になってしまった例と、注意点・対策についてお伝えしました。
年々患者数が増えている化学物質過敏症、いつ誰が発症してもおかしくないと言われている病気です。
当店では、20年間培ったノウハウと技術で、化学物質の除去や化学物質過敏症対策のリフォームなどを行っています。
また、リフォーム中の一時避難用に化学物質過敏症対応の物件の用意もありますので、安心してお気軽にお問い合わせください。