シックハウスへの取り組み

シックハウス症候群

 

平均でヒトはその人生の 80 %以上を室内空間で過ごします。またヒトは飲食物を 1 ~ 2kg 毎日摂取しますが、空気は毎日 15kg を摂取します。さらに飲食物は吸収されてすべて肝臓という解毒の関門を通過しますが、空気中の汚染化学物質は呼吸器から直接血液へ溶け込み、一部の化学物質は鼻粘膜から直接脳内へ流入します。室内空気汚染化学物質の怖さがここにあります。劣悪なビルディング室内環境から発症する症状をシックビルディング症候群と呼びます。この中には、化学物質、湿度、カビ、採光などの問題も本来は含まれているのですが、化学物質汚染対策が一番重要となっています。この問題は 20 年近く以前から医学界でも警告がなされていましたが、今日もまだ問題を残したままです。本邦では一般家庭住宅での劣悪な建材からの室内空気汚染物質による健康障害が多発したために、シックハウス症候群の名称が一般に使用されています。シックハウスは新築も問題ですが、住みながら行う改築、改装も非常に注意が必要です。

シックハウス対策

シックハウスから発生する健康障害

 

薬理学に、「化学物質は大量では抑制、微量では刺激」という Ardont Sholtz の法則があります。現在問題となってきている点は環境微量化学物質の生体刺激作用です。ヒトの体の健康は、免疫、ホルモン、神経の 3 者の連携下に安定が保たれています。

微量化学物質による健康障害には、この免疫系の異常としてのアレルギー疾患、神経系の異常としての化学物質過敏症、内分泌異常の内分泌撹乱物質作用が代表的なものです。シックハウスからの微量化学室物質による室内空気汚染があまりに強いと、通常の中毒と同様の症状も出現してきます。

アレルギー疾患にはアトピー性皮膚炎、喘息が代表的な疾患です。

化学物質過敏症は、自律神経失調を中心として、頭痛、うつ、集中力低下、記憶力低下、いらだち、意欲低下、学習力低下などの精神症状も出現してきます。そして極めて微量な化学物質、特に空気汚染物質に非常に過敏に反応して、症状が誘発されてくることが特徴です。この化学物質過敏症の診断には、次の 1999 年に提出されている合意事項が非常に便利です。

・ 微量な化学物質に反応を示す

・ 関連性のない多種類の化学物質に反応を示す

・ 化学物質曝露で症状が再現する

・ 原因物質の除去で症状は改善される

・ 症状は複数の器官、臓器にまたがる

・ 慢性の経過をたどる

なお化学物質過敏症とアレルギー疾患が合併してくることもあります。

シックハウス症候群はその建物を離れればすべてが解消する、軽い中毒の発想のみであったために、アレルギーや化学物質過敏症のような過敏反応に対する配慮が欠けている点が欠点でした。シックハウス症候群で最も重要な問題はこの過敏性の獲得であり、一旦発症すると、生活空間に非常に制限が加わわります。もちろん免疫系、神経系の機能失調は、他の疾患を誘発する可能性もあり、新築 3 年間は事故と病気が多いという報告もあります。

お家で呼吸できますか?どこに潜んでいる?
化学物質・揮発性有機化合物 (VOC)の使用例

1. ホルムアルデヒド:皮膚・目・粘膜刺激
2. トリクロサン:発疹、めまい
3. フタル酸じエチル:中枢神経機能抑制、皮膚・上気道・目刺激
4. リン酸トリクレジル:胃腸障害、手足の麻痺

5.トリハロメタン:うつ病状態、食欲不振、幻覚
6. パラジクロベンゼン:咳、喘息悪化
7. スチレン:眼・皮膚・粘膜刺激、中枢神経作用
8. ブタジェンゴム:眼、粘膜障害

9. ナフタリン:皮膚・目・粘膜刺激  
10. テトラクロロエチレン:中枢神経作用・肝臓・腎臓障害
11. フェニトロチン:神経毒性・眼毒性・免疫力低下
12. フェンチオン:発ガン性疑惑・胎児毒性・ 神経毒性

13. ダイアジノン:神経毒性・眼毒性・下痢・嘔吐
↓接着剤・塗料・家具
トルエン:鼻の灼熱感 生殖発生への影響
キシレン:喉の乾燥感、出生児の中枢神経発達への影響

化学物質の主な症状
「目」… 
痛み、かゆみ、涙が止まらない、充血、目がチカチカする
「鼻」… 鼻水、鼻つまり、鼻血、臭いに敏感になる、くしやみ
「のど」… 痛み、喘息、咳、口か渇く
「耳」… 耳鳴り
「身体」… 不整脈、心臓がドキドキする、平衡感覚の異常、興奮、めまい、ボーっとする、集中力の低下、下痢、便秘、足先のしびれ、じんましん、湿疹、肌荒れ、乾燥肌、かゆみ、 吐き気、食欲不振など
何か当てはまる事じがあれば、家の中を見渡してみてください。

医学的所見

 

中毒に近い状況の被害者からは肝機能の異常も検出されます。アレルギー患者では疾駆亜ハウス入居後に IgE の増加を認めることもあります。化学物質過敏症患者では、重心動揺、眼球追従運動、瞳孔の対光反射、目のピント合わせ、視覚感度、呼吸機能などに障害が検出されます。血液検査ではいまだ確実な異常所見が得られていません。しかし患者の訴えが決して精神的な者でないことは明らかです。また、化学物質過敏症はアレルギー歴を有する患者や、内分泌異常歴を有す患者に発症しやすいために、病歴にこれら疾患を有する人は特に住宅には配慮が望まれます。また、家族全員が発症することもあれば、 1 人だけ発症することもあります。患者の体質が大いに関係しています。一般に女性が発症しやすいのですが、しかし、発症していない配偶者を調べると、同様の異常検査所見が得られることも多い。また、最近は職場の空気汚染で発症する男性も増えています。

シックハウス症候群の原因物質

建材から発生する主な有害汚染物質は、ホルムアルデヒド、白蟻駆除剤、トルエンなどの揮発性有機化合物( VOC )です。もちろん複合汚染として空気汚染は考えるべきであり、室内空気汚染物質は非常に多種類の物質を抱えている。また汚染源は建材のみでなく、家具やシステムキッチンからもホルムアルデヒドが大量に放出されます。合板製品からは当然各種の化学物質が放出される。家電製品などのプラスチックからの可塑剤としてのフタル酸化合物、有機リン酸化合物なども危険物であり、プラスチックやビニール製品は新しいほど揮発物が多いのです。その意味で、新しい電気製品は要注意です。さらに、カーテンの難燃剤、床ワックスからの揮発性物質、畳の防虫シート、ウレタン塗料からの揮発物、トイレの芳香剤、衣服の防虫剤、殺虫スプレー、防水スプレー、ドライクリーニング後の衣服にしみ込んでいる化学物質、新しい書籍、タバコの煙など、抗菌グッズ、身辺には無数の発生源があります。高気密住宅にこのような化学物質が充満すれば、健康障害を生じることは当然です。また、室内空気が汚染しやすい職場でも同様の問題が生じており、美容院、薬局なども非常に問題の多い職場です。建築関係も非常に危険の多い職場です。

ホルムアルデヒド 80ppb の指針値が提示されていますが、小児喘息は 40ppb でも発症に関与して、 16ppb 以下であれば安全との報告もあり、一旦発症した後には、この指針値以下でも症状の悪化をきたす可能性があることには留意しておきたいと思います。われわれの実験でも、 80ppb では間違いなくモルモットの実験的花粉症が増悪します。しかし、行政側のこの指針値の設定により、数年遅れではありますが、一般家庭からのシックハウス症候群は減少傾向にあると思われます。一方職場環境からのシックビルディング症候群の割合が増えてきています。ホルムアルデヒドはアレルギー反応を起こしやすく、トルエンは少ないようです。パラジクロロベンゼルは目、鼻、ノドを中心にアレルギー反応を起こします。

また指針値以外の化学物質の総量を減らすことを常時念頭に置く必要があります。芳香剤をトイレに 1 個置くだけで、トイレ内の汚染は数千 ppb に達します。実際には使用禁止と同じ指針値ですが、いまだに使用され続けています。さらに臭わない化学物質も最近使用されていますが、体に入った化学物質はすべて分解除去する必要があるために、無用の化学物質の吸入量を増やすべきでありません。

対策

 

シックハウス症候群に関しては、治療と予防は同じ問題です。

生体異物の減少を図ることが大前提です。そのためには、合成化学物質の体内への侵入総量の減少を図ることと、体内の合成化学物質の排出を図る必要があります。

 

① 化学物質総量の減量

・建築に十分配慮すること
・無用な化学物質の使用を避けること
・十分な換気に努めること
シックハウスから逃れることが最重要で、転居をお勧めすることもあります。また、ヒトの体からも汚染物質が発生する以上、問題解決には換気が最良です。止もう得ない時には、空気清浄機を使用しますが、空気清浄機にはそれぞれの特徴があり、使用により逆に中間代謝産物による空気汚染を増悪させることもあるために、十分理解して使用すべきです。

② 体からの排出促進


栄養療法:
生体異物摂取増加時にビタミン C の必要量が増加することは知られています。酸化防止のためには、ビタミン E 、カロチン、ルテイン、フラボノイドなど各種の有色野菜の摂取が必要です。またマグネシューム、亜鉛、セレンなどのミネラルを十分摂取することも必要です。生体異物は活性酸素を発生させますが、それは過酸化窒素を増やし、それがまた活性酸素を増やすという悪循環を形成しています。これを断ち切るためには、これらの酸化防止は矢張り一番重要です。

運動療法:
新陳代謝を盛んにすることと、体外へ排出されにくい物質を汗として排出させる目的で行われます。汗の分析でも生体異物の排出促進が確認されています。

温熱療法:
受動的に新陳代謝を盛んにし、発汗による排出促進は運動療法と同じ目的です。また、温泉療法は自律神経失調にも有効に作用しています。ただ、高温浴はストレスを一時的に高めるために、自律神経失調を示している患者には低温浴を勧めています。

薬物療法:
解毒促進のために、グルタチオン、タウリンなどの投薬も行います。総合ビタミン剤、コエンザイムQ10、酸素吸入、メラトニン、精神安定剤、なども必要となります。

 

③ 生活リズムの正常化

精神的安定を保つ、家族の協力を得る、早寝早起きをする、朝日にあたる、暗くして寝る、軽い運動をする、深酒は避ける、喫煙は出来たら避ける、気分転換をする、楽しみを見出す、という単純な事が非常に重要です。

まとめ

高気密住宅の開発と、新建材の普及は、室内空気の汚染を引き起こし、シックハウス症候群を引き起こします。シックハウスに入居して、一旦アレルギー症状や、化学物質過敏症を引き起こすと、その後は極めて微量の空気汚染物質に反応して症状の悪化をきたすようになります。発症すると生活維持と対応に非常に経費が掛かるようになってきます。発症前の注意が何よりも必要です。室内空気の汚染には十分注意して、建築の専門家とよく相談して、建築材料に配慮する必要があります。

北里大学名誉教授 現そよかぜクリニック院長
宮田幹夫先生

 

シックハウス症候群や化学物質過敏症の権威でもある宮田先生。磯崎工務店では化学物質過敏症の情報交換をさせていただいており、セミナー等もお願いしております。宮田先生のご自宅も弊社で増改築リフォームをさせていただきました。

プロフィール

宮田幹夫(みやた みきお)
日本臨床環境医学会 元理事長

1965年 名古屋市立大学医学部医学研究科修了
名古屋市立大学医学部講師、北里大学医学部講師を経て
1974年 北里大学医学部助教授
1988年 北里大学医学部臨床研究教授
1999年 北里研究所病院臨床環境医学センター部長
2001年 北里大学名誉教授
2008年 そよ風クリニック院長

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